経営者が亡くなった時、その相続については、様々に留意しなければならないことがあります。
事業の承継については云うまでもありませんが、相続自体についても、中途半端な対応はできません。
なぜなら、相続の対象となるのは資産だけではなく、借金や保証債務といった負債までも相続対象となり、その把握だけでも大変な作業になるからです。
中小事業者の場合、保証債務を含めて負債内容が判るような資料を用意し、事業承継を考えて、早い段階から準備しておくことが重要なのだろうと思います。
元経営者の相続について、興味深いお問い合わせをいただきましたので、詳細をご紹介したいと思います。
そのご夫婦は、力を合わせて事業を展開されておられました。
当時はバブル経済下で、銀行や政府系金融機関等から1億円を超える資金を借入し、ご夫婦共に連帯保証人になり、事業の拡大も図っていました。
ところが、バブル崩壊と共に経営状況は一変してしまったのです。
そして、順調だった事業が厳しくなるのに時間はかからず、経営が破綻したのは30年ほど前の話です。
その後、経営者夫婦は離婚をされ、子供さん3人はご夫人が引き取られました。
ここ20年程は、ご夫婦間や父親と子供間の交流は途絶えていましたが、最近、お父様が亡くなられたとの連絡が入りました。
お父様は、亡くなるまでお一人で生活をされておられ、法定相続人は子供さん3人だけということになります。
音信が途絶えてから長く、お父様の状況を全く把握できていなかったので、遺品を調べてみます。
すると、相続対象として、2000万円程度の現預金と、1億円を超える負債の存在が判りました。
その負債は、30年ほど前に金融事故になった、政府系金融機関からの借入元本の残債であり、遅延損害金を含めるとはるかに膨大な金額になると思われます。
この相続をどうするかについて、母親と兄弟で相談をしました。
1人の兄弟は、2000万円程の現預金が有るので、それに見合う負債だけを相続する「限定承認」を検討するといいます。
もう1人の兄弟は、遅延損害金を含む負債が多すぎるので、相続放棄をする手続きに入ろうとしています。
残る兄弟は、相続についてまだ悩んでおられますが、相談相手のお母さんには、政府系金融機関と連帯保証人として対応した記憶が残っておられます。
それは、離婚後しばらくは、毎月3000円程をお母さんが連帯保証人として返済をしておられたのですが、ある日、政府系金融機関の担当者から、「もはや完済は不可能なのでこれ以上の返済は不要であり、今後、この件について連絡はしないでほしい・・・」と連絡が入ったのです。
それにより、返済を止めましたが、それ以降は一切連絡も入らなくなったため、お母さんはこの借金は決着したのだろうと思っていたそうで、これが15年ほど前の話になります。
お父様が、離婚後、政府系金融機関にどの様な対応をされていたか、具体的なことは一切判りません。
したがって、1億円を超えるであろう負債がどうなっているのか、正確に把握できないまま相続を検討しなければならないのです。
この様な状況で、相続に悩んでおられる方からご相談とともに、以下のような質問をいただきました。
(1) 時効期間について
Q,政府系金融機関の場合の時効は、5年なのか10年なのか解釈が微妙なようですが、10年が正しいのでしょうか?
A,・・・時効期間は、最後の更新(中断)から5年が基本になります。
これは、営利目的ではない政府系金融機関でも信金信組でも、商人が借入をしていますので、時効期間は5年です。(昨年4月1日の民法改正で、商人でなくとも5年になりました。)
ただし、裁判などで判決が確定した場合は10年となります。
(2) 債権譲渡と信用情報について
Q,債権がサービサーに譲渡された場合、信用情報から債務情報は削除されてしまうのでしょうか?
A,・・・政府系金融機関や信用保証協会などの公的な機関は、サービサーに債権譲渡をされることはありません。
信用保証協会は、子会社の保証協会サービサーに債権回収の委託をしているだけです。
・・・信用情報機関の情報は、基本的に金融事故などが発生してから5年間(破産など法的手続きの場合は7年間)に亘り掲載され、その後は削除されます。
したがって、ご両親の金融事故情報が残っているとは考えにくいです。
(3) 時効の援用について
Q,時効の中断が行われていなかった場合、時効の援用が可能だと解釈していますが、私と母は最終返済日の正確な日付の証拠は何も持っていません。
その状態でも時効の援用は可能なのでしょうか?
A,・・・時効の援用をした場合、当然に、債権者は自らが保持する情報の中で判断をします。
政府系金融機関においても、必ず時効の管理はしているでしょうから、正確な最終の時効の更新(中断)の日付は理解していると思います。
したがって、こちらが時効の援用をしたとすると、債権者が持っている情報の中で時効期間が完成していれば、それで時効は成立することになります。
その後、請求されることはなくなることが時効成立の答えですが、最近は、信用保証協会などは時効が成立した通知をしてくれる場合もあります。
(4) 債務承認について
Q,私が国民金融公庫へ父の不良債権について問い合わせをすることは債務の承認にあたるのでしょうか?
A,・・・時効期間が完成していないとして、電話でその旨を確認をされたとしても、誰が電話したという明確な証拠がありませんから、債務承認を証明できないのではないでしょうか。
また、相続前であれば、当事者ではありませんから、当然に承認には当たらないでしょう。
ただ、この段階で、相続をされていない方に、公庫が情報を教えてくれるとは考えにくいです。
(5) 時効の援用失敗による再請求
Q,母への催促が再開してしまった場合、月々の返済額等どういった想定になるでしょうか?
母が返済を行っていた時は月数千円でしたが、今では状況が代わっているため、その程度ではすまないと思っています。
A,・・・遅延損害金が、14.6%ほどかかりますから、おおよそ7年間で債務は倍になります。したがって、30年前に期限の利益の喪失をしたとすると、債務額は元本残債の4倍以上になっているでしょう。
元本が1億円と仮定すれば、総額5億円の債務ということになり、物理的に完済は不可能ではないでしょうか。
また、政府系金融機関や保証協会は、残債額に関係なく、債務者の状況合わせて弁済額を検討してくれることがほとんどです。
⑹ 資産の差押について
Q,この状況の場合、マンションや給与の差し押さえまで想定する必要があるでしょうか?
A,・・・単純に相続をされ、債務が残っていた場合、不動産や給与,預金等に対して何らかの対応をしてくることは考えられます。
ただ、訴訟などされて債務名義がないと差押えはできず、仮差押しか実施できません。
最後に、ご質問についての、私の捉え方をまとめさせていただきます。
まず、政府系金融機関は時効を完成させる事例が多いという現実があります。
特に、債務者が弁済できない様な、経済的に厳しい状況にある場合、その環境に合わせた対応をしてきます。
最近は、債務者が生活破綻状況にある場合などは、無茶な債権回収はせず、そのまま放置という事例も珍しくありません。
また、お問い合わせの案件においては、お母さまに対して15年以上前に政府系金融機関から連絡があり、今後の弁済が不要と通知をされています。
この様な場合、保証人だけではなく、主債務者に対しても同じような対応を取っていると考えるのが自然だと思います。
詳細を把握していませんので断言はできませんが、お父様の経済環境を考えると、上記により、たとえ訴訟などにより確定判決が出されて時効期間が10年になっていたとしても、30年が経過した現在においては、時効期間が完成している可能性は低くないと思います。
限定承認をされるということであれば、資産額と同額の負債を相続することになり、もしも、負債を請求されることがあれば相殺をするだけのことですから、手続き費用などは掛かるものの大きな損には繋がりません。
この場合のリスクは小さいといえます。
以上です。
詳しい内容は、ホームページをご覧ください,
↓
会社再生・経営危機打開・事業承継オンラインセミナーをご覧ください,
↓
ランキングです クリックして応援してください
↓
ランキングです クリックして応援してください
↓