仕入先への支払いが・・・


 

中小事業者には、様々な種類の債権者がおられます。

借入をしている金融機関などに始まり、仕入れや外注などといった取引先,税金や社会保険なども対象になるでしょうし、保険やリースなど、そして従業員なども債権者になります。

債権者とは、債務者に対して、一定の給付をなすべきことを請求しうる者のことになり、例えば、銀行が貸付をすると、その弁済を請求できる債権者ということになるのです。

これらの債権者に、優劣をつけるのはおかしな話になりますが、資金繰りの現場においては優劣が不可欠となることがあります。

 

 

資金繰り悪化で、支払い資金が不足した時、創業経営者やご高齢の経営者には一つの傾向が見受けられます。

それは、借入をしている銀行などの金融機関に対してだけは、最後まで約束通りに借り入れを弁済しようとされることです。

金融機関とさえ、健全な関係を維持できれば、経営は維持できるというお考えがあるからです。

しかし、仕入先や外注先などといった取引先に対しては、支払いの見直しをされることなどに躊躇はありません。

支払を延ばしたり、減額したり・・・と、取引先の資金繰りなどお構いなしに、自社の都合で無理を要求されます。

簡単に考えて取り組まれるのでしょうが、これは順序が全く逆であり、根本的に考え方が間違っているのではないでしょうか。

経営を維持したいなら、まず金融機関に元本返済の棚上げをお願いすべきであり、経営を維持するためには、取引先との対応が重要であり、健全な関係を維持することを優先しなければなりません。

しかし、本当に資金繰りが厳しくなり、取引先にも無理をお願いしなければならない、そんなこともあるのが中小事業者経営だといえます。

そんな時に、取引先との健全な取引を維持しながら、できるだけスムーズに対応する方法について考えてみたいと思います。

まず理解すべきことは、取引先にも色々とあり、対応を変える必要があるということです。

お取引の歴史や企業の規模、さらに経営健全性などにより、一括に捉えて取り組むのではなく、取引先との関係や状況に配慮して対応することが必要となります。

金融機関だけ無理を言ったり、取引先を区別して支払いをしたりすれば、偏波弁済だと追及されるのではと心配される方もおられるかもしれませんが、それは法的手続きの場合の話です。
(偏頗弁済とは、債務者が特定の債権者だけに返済したり、担保を提供したりすることで、特定の債権者を優遇する詐害行為のこと。)

今は、任意での再生手続きになりますから、資金繰り確保の対策の中で、そんなことを心配する必要はありません。

無理をお願いした悪影響を、出来るだけ抑えるために、様々なことに配慮し、無理をお願いする対象を絞る必要があるのです。

中には、支払い時期を少し遅らせただけで、資金繰りを困窮させる取引先がないとも限りません。

そんな取引先は避けて、経営に悪影響など与えないだろうと想定される取引先に限定して、お願いをする様にすべきでしょう。

さらに、取引先に支払の変更を依頼する場合に留意するもう一つの目的は、信用不安を流出させないことになります。

だからこそ、依頼すべき対象を限定すべきなのです。

その時には、できるだけ対象となる取引先数を減らすことも重要になります。

対象を選定する基準は、取引先の経営状況を中心に、お取引の歴史や企業の規模で判断することになります。

取引の依存度の高い小さな事業者にばかり、無茶を言う事例も少なくありませんが、これは間違った対応であり、結果が跳ね返ってくる可能性が高いので回避すべきだと思います。

支払いの遅延をお願いする時には、何故、この様な依頼をするかや支払時期について具体的にご説明して、取引先の経営に影響を与えないことと、信用不安の流出回避に留意しての対応をお願いいたします。

また、支払いの遅延をお願いするタイミングは、支払日よりも少し前で、取引先が対応できる余裕を持ってください。

特に、支払手形を切っている場合は、ジャンプの依頼をすることになりますが、割引きに回っていたり、裏書で支払いに回されているとジャンプも難しくなります。

したがって、できるだけ早いタイミングでの依頼が有効になりますし、次の対応が可能になります。


取引先への依頼が、1度で終わる場合はこれで何とかなると思います。

しかし、何度も繰り返される場合はどうすればいいのでしょうか。

取引先の、信用面での不安は随分と大きくなっているはずなのです。

この信用不安に対応するために、もう一度、今後の展開について考えてみる必要があります。

まず、本当に、無理をして資金繰りを確保する必要があるのかと考えてみてください。

今後の展開が見えてこないのであれば、事業の継続を諦めて、整理を選択すべき道も見えてくるでしょう。

それでも、再生の可能性があり、事業の維持を目指すという判断になれば、意味ある資金繰り対策にするべく、取引先に丁寧な説明が必要になります。

現在の経営状況や資金繰りについては当然のこと、今この展開予測などについても 根拠を持って説明しなければなりません。

中には、保証金の要求や、担保もしくは経営者保証の提供を求めてくる取引先もあると思います。

この様な要求があった場合も、懇切丁寧に対応することが前提になりますし、場合によれば、経営説明会議的な場を用意して、さらに踏み込んだお願いをした方が、良い結果につながるのかもしれません。

当然、倒産の報告ではなく、お願いの内容は支払いの遅延であり、場合によれば、経営状況を理解していただいたうえで、債権の一部カットにまでなるのかもしれません。

この様な経営説明会議を開催するのであれば、金融機関などは対象から除外し、対象となる取引先も少ない方が取り組みやすくなるのは当然です。

取引先が20社程度以下であるのならば、1社ずつ回った方が、良い結果を得られるのかもしれません。

 

どう考えても、取引先に支払いの遅延をお願いするのは、経営面でのリスクが大き過ぎるといえます。

本来は、回避すべき取組みなのですが、どうしても取り組む必要のある場合は、短期に限定するべきです。

長期もしくは複数回の支払い遅延になるようであれば、取引停止や信用不安につながる可能性が高くなり、経営を維持すること自体が困難になってくるでしょう。

お取引先に、支払いについて無理をお願いするのは、取り返しのつかない結果につながる可能性がありますので、慎重に対応しなければなりません。

 

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