平成26年2月、債権債務処理の世界にとって、大きな転換点になりました。
リーマンショック以降、政府は中小企業の経営を守るため、延命を前提とした護送船団方式による施策を実行してきました。
ところが、アベノミクス景気をバックに、いつまでも改善できない中小企業に対して、政府は施策を根本的に見直しました。
リスケジュールをしながら経営改善に取組んでも、再生の見込みのない企業については、市場からの退場を促し、新陳代謝を図るという方向になってしまったのです。
お客様とのご面談において、平成26年2月というキーワードをご説明することが少なくありません。
それは、冒頭でご説明した内容と共に、『経営者保証に関するガイドライン』と『特定調停スキーム』という、債権債務処理の世界を根本的に変えてしまうほどの制度が、運用開始されたからなのです。
『経営者保証に関するガイドライン』については、既にご存知の経営者も多いことだろうと思います。
日本には、連帯保証人という独自の制度が存在し、長年に亘り大きな社会問題となっていました。
この連帯保証人問題について、根本的に見直しを図り、健全化を目指したのが経営者保証に関するガイドラインなのです。
しかも、第3者の保証人だけではなく、経営者の連帯保証人について言及し、制約を加えたという画期的な制度だといえます。
このガイドラインの運用開始により、金融機関から融資を受けるとしても、基本は経営者の連帯保証人を必要としなくなり、経営状況が悪いなどといった一定条件においてだけ経営者の連帯保証人が求められるようになりました。
また、会社が倒産するなどの事態においても、経営者が全ての資産を失ってしまうことを回避し、自宅さえも守れる可能性があるという画期的な制度なのです。
当然に、様々な諸条件を前提とした対応となりますので、無条件でというわけではありませんが、劇的制度であることは間違いありません。
また、『特定調停スキーム』という制度も、同時に運用を開始されました。
経営者保証に関するガイドラインでは、経営者の個人保証については改善をされる方向が示されましたが、債務者本人である会社の処理についての問題が残されており、これを画期的に解決しようという制度になります。
ある意味、経営者保証に関するガイドラインとセットとして、時代に合わせて迅速に処理できるようにしようというのが、この『特定調停スキーム』だといえます。
特定調停スキームの仕組みを簡単にご説明しますと、昔からある特定調停という制度を活用し、会社を再生するスキームについて弁護士会が中心となって最高裁判所や中小企業庁も関わり、『運用マニュアル』を作成して、今後の中小零細企業の再生についてのプラットホームにしようというものです。
概ねで年商20億円以下,負債10億円以下の中小零細企業が対象になり、最低でも、約定金利等以上を払える収益力を確保する等、様々な条件も要求をされます。
手続きとしては、特定調停を申し立てる前に、弁護士が中心となって、デューデリジェンス等を実施し経営改善計画書なども作成し、事前に債権者と協議を実施して、一定の調停見込みの確保を図ります。
そして、この事前協議が成立すれば、簡易裁判所に特定調停を申し立てるという流れになりますが、裁判所は関与するだけで、現実は私的整理のような形態になります。
この特定調停スキームの最大のメリットは、経営改善計画の内容により、既存債務の全部もしくは一部の免除が可能になるということで、信用保証協会の求償債権さえも放棄が可能という特筆すべき制度だといえます。
今までも、中小企業再生支援協議会の経営改善計画の内容により、信用保証協会の債権放棄の可能性は示されていましたが、それは建前だけで現実的にはほとんど実施されていませんでした。
信用保証協会の求償債権は、現実には債権放棄も債権譲渡もされないという債権で、いつまでも債務者は当然の事、保証人である経営者までも追い詰めるという厄介な代物で、経営者の人間的再生を阻害してきたという事実は否定できません。
信用保証協会の求償権さえも、放棄が可能になるという強力な制度ですから、債権債務処理を大きく転換させる可能性があったのです。
運用が開始されてから5年、『経営者保証に関するガイドライン』と『特定調停スキーム』はどの様に活用をされてきたのでしょうか。
『経営者保証に関するガイドライン』については、制度して十分に活用をされているといえます。
融資を受けるときには、経営者の連帯保証人を要求されないというのが珍しくなくなりました。
民間の金融機関においては、まだまだ実態として要求されていますが、日本政策金融公庫や信用保証協会では連帯保証人を取らないのが基本とさえなっています。
さらに、相続の絡む事業承継においても、連帯保証人の承継を求められることが減少しています。
また、倒産して、経営者が保証債務を免除されるという事例も、珍しくなってきました。
『経営者保証に関するガイドライン』は、極めて大きな成果を、債権債務処理の世界に与えたといえるでしょう。
『特定調停スキーム』については、弁護士会が中心になって、その活用を積極的に図っている様です。
しかし、『経営者保証に関するガイドライン』と比較すると、まだまだ浸透しておらず、成果も出せていないといえるでしょう。
信用保証協会の求償権の免除においても、ほとんど成果は見られません。
ただ、『特定調停スキーム』は裁判所に関与させるという流れでは成果が少ないですが、その仕組みは浸透しているといえます。
中小企業再生支援協議会や認定支援機関などの再生スキームは、『特定調停スキーム』と同じようなシステムであり、任意整理において積極的に活用されているといえるでしょう。
平成26年2月から5年が経過し、もうすぐ令和になろうとしています。
平成は、事業再生スキームが模索された時代であり、ほぼ基本形は出来上がったといえるでしょう。
そして、令和に向かい、新しい債務処理方法が模索され、債権と債務、それぞれの立場で納得できる仕組み作りが必要だと思います。
『経営者保証に関するガイドライン』と『特定調停スキーム』併用した活用は、新しい時代の中小企業の事業再生にとって不可欠な制度だといえるでしょう。
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